特集 棚田米のブランド化の今

~棚田米にユニークな付加価値を付ける~

会報2009年10月号で「棚田米流通の謎」を特集しましたが、それから十余年、棚田米のブランド化は決して活発とはいえませんでした。少子高齢化などでコメ全体の消費は減ってきております。しかし、ウクライナ戦争、地球温暖化等の影響もあり国民の間に食料を外国に依存することの危うさから食料の安全に関心が高まり、棚田を巡る状況も変わりつつあります。農林水産省が選定している「ディスカバー農山漁村の宝」にも積極的な棚田米のブランド化を試みる事例が見られるようになりました。年間45トン12種類の棚田米を扱う成川米穀店の店長さんも、「SDGSや地球温暖化がたびたび取り上げられたこともあり、棚田の知名度が高まり、お店でも棚田米を見 て話題にするお客様が多くなっている」と語ります。棚田米ブランド化の先進地としては、特別栽培米の認定を受けて品質やパッケージを統一した「棚田米 、蕨野」を販売する佐賀県唐津市相知町蕨野や、 集会所に精米プラントを導入して魚沼産コシヒカリを精米~梱包作業を効率化しパッケージを統一し「山清水米」という独自ブランドで販売する新潟県十日町市池谷・入山地区などがありますが、ここでは、最近注目される棚田米にユニークな付加価値を付けたブランド化の事例を紹介します

CASE1: ローマ法王に献上し、一躍有名となりブランド化

石川県 羽咋市 神子原町(神子原棚田群) 株式会社 御子の里

石川県羽咋市は、石川県の能登半島の基部西側に位置し、邑知潟低地平野部を囲んで海手・山手に散在しています。神子原町では、2005年(平成17年)に神子原地区で生産されたコシヒカリを「神子原米」としてローマ法王に献上し、 一躍有名となりブランド化に成功しました。神子原地区住民等が共同出資して2007年、株式会社「神子の里」を起業し 同年にオープンした神子原農林水産物加工販売施設(2020 年リニューアル)(通称:神子の里)を地域の拠点と位置付けて新鮮で安全な農産物の販売や、棚田の保全、活用や住民の生活環境の持続に向け て取り組んでいます。市内酒造会社と協力し御子原米を使用した純米大吟醸酒「御子・Son of God-」2019年(令和元年)に発売、神子原米の米粉を使ったソフトクリームやスイーツなど、神子原米の魅力をさらに向上させ地域の特産品に付加価値を付ける自社商品の開発にも力を入れています。今和3年度からは地域内での宅配サービスを開始し、地域における暮らし支援として徐々に販路を拡大しています。また山間部の農地を守るため法人としても営農を支援しています。近年は、県外や市外から就農希望の移住者を積極的に受け入れ、高齢化の進む地区での担い手育成にも取り組んいます。

神子原棚田群の詳細はこちら

CASE2:棚田で農薬や化学肥料を使わない、環境保全米の栽培

富山県 魚津市 観音堂 株式会社 NOROSHI Farm

魚津市は富山県の東部に位置し、北アルプスに連なる山岳地帯で、市域の70%が標高200m以上の急こう配の山地で占められ、台地から平坦地、海岸へと緩やかな斜面を形成しています。農場の水田は魚津市立山連峰に連なる剣岳の麓に広がり、約30haのうち23haが棚田です。お米は、農薬や化学肥料を使わない環境保全米「つるぎの」、自然栽培米「富の環」として栽培され、毎月120人から150人のお客様に届けているとのことです。社長の秤苗良太氏は、大学時代に出会った恩師とラオスを研究し、人々の暖かなコミュニティとお互いへの思いやりに満ちたラオスの良さが、ふるさとの原風景と幼少期の思い出と重なり農業でそんな未来をつくりたいとの想いから「ひえばた園」を始めました。当初は、なかなか振り向いてもらえませんでしたが、少しずつ良さを理解してくれるお客様が増えてきたとのことです。2022年2月、ひえばた園から株式会社「NOROSH Farm」を立ち上げ、体制を強化しました。中山間地の棚田は手入れが大変なので、畦の草刈りは地主にしてもらうなどの工夫をし現在従業員は3~4人で経営しています。また、最近直売所を開設しお米ばかりではなくおにぎりや米粉おやきなどの加工品も販売を始めました。地域には、耕作放棄地や後継者のいない棚田も多く、今後とも同社で引き受けてもらい、地域の活性化の起爆剤としての会社を目指したいとの思いを話してくれました。

CASE3:「海外市場へのマーケットイン」を軸とした無農薬米

 長野県 伊那市 長谷中尾(中尾の柵田)  株式会社WakkaAgri

長野県伊那市長谷中尾地区は、二つの日本アルプスに挟まれた地域になります。2015年(平成27年)に旧中尾集落営農活動が困難となり解散し、耕作放棄地が増えてきていました。輸出米事業を展開していた株式会社Wakka Japan代表の出口氏が海外市場に特化したお米づくりをしたいという思いから長谷地域に移住し、2017年に日本で初めての輸出米専門の農業生産法人株式会社「Wakka Agri」を設立し、海外市場へのマーケットインを軸とした無農薬米の生産に取り組んでいます。会社は、海外市場に目を向け、香港、 シンガポール、台湾 、ハワイ、ニューヨークでPR活動を行い、2020年(令和2年)に株式会社 Wakka Agriと地元住民を巻き込んだ新中尾集落協定が発足し、中尾地区を拠点とした耕作放棄地の再生、高機能玄米「カミアカリ」の作付け、加工品製造、優れ た景観を活かした棚田祭の開催、地元住民の正規雇用等を通じて地域課題解決のための活動を積極的に行っており、 荒廃農地の再生は10ha(令和3年度)に増加し、2021年度(令和3年度) は 15トンのお米の輸出を達成しました。今後は、豊かな自然、土の匂い、 雪解け水の冷たさ、 新緑の ネルギーを感じながら農薬や化学肥料を一切使わすに作る稲作体験や「標高1000mの天空の棚田からネ オン熄めくニューヨークへ届けるお米つくり」をャッチフレーズに海外向けの米作りを広げてます。 その中で中尾地区の魅力を発信、 中尾地区のみならず長谷地域をリードする役割を担っていきます。

中尾の柵田の詳細はこちら

◇ 認定NPO法人棚田ネットワーク会報誌「棚田に吹く風」129号(2023年秋号より転載)

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