特集「棚田花壇」

棚田での稲作が困難になって、他の畑作物に転作し再利用されることは多々ありますが、それでは棚田の形はかろうじて残るものの、棚田の景観的価値は減少してしまいます。そこで昨今、棚田にさまざまな花を植えることで、その景観的価値を維持しつつ、観光資源にしていこうという試みが各地で行われています。棚田を彩る美しい花々をお楽しみ下さい

稲積棚田/ 愛媛県大洲市

「愛媛のたなだん」に掲載され、棚田カードにも登録されている棚田です。全体の規模は約70枚・4 ha ほどです。およそ十数年前に一軒の農家が1枚の田んぼに菖蒲を 植え、娘夫婦が後を継ぎ、今は次男(がんちゃん)が守っています。約 1 2 0 種類・1万株、菖蒲田の枚数も増えてきています。地域の協力でイベントを実施していた時期 もありましたが、コロナ禍や高齢化・過疎化でイベントはほぼできなくなりました。菖蒲田の手入れでいちばん大変なのが草取りです。一枚目から順番に取りかかり、最後の田を 取り終えた頃には、また1枚目の草が伸びている状態です(費用は全て個人の持ち出し)。それでも、大勢の人が楽しみに見に来てくれるため、自分が元気なうちは続けたいとは「がんちゃん」の弁です。菖蒲と競うように、田の周りにはアジサイ 約 2 5 0 種。水色、白、濃いピンク、紫と、こちらも色とりどりで秋には、棚田の畦を彼岸花が彩ります。

二俣地区棚田/三重県津市

三重県津市二俣地区は、民家の合間に棚田がある日本の原風景が残る里山です。ただ昨今は耕作放棄地や太陽光発電設置地が増えて来ました。地区の景観をとどめようと「津市白 山美化推進委員会」を立ち上げ、西側にそびえる紀伊半島の山々からの豊富な湧水を利用して、2007年、斜面に広がった 6 8 8 0 ㎡の棚田に睡蓮を植えました。開花のピークは6月下旬から七夕ごろまでです。5色の花が咲き、今では沢山の観光客が訪れる場所となりました。メンバーも高齢になり真夏の草刈りなど苦労されていますが、地区の方・訪れる方の為頑張っておられます。入場料などは無料ですが募金箱が設置されていますので、維持管理の為ご協力お願いします。(写真提供:中森 勝[二俣区美化推進部代表])

梨子ヶ平の千枚田/ 福井県越前町

この地域はもともと水仙が自生しており、日本三大水仙群 生地の一つでもあります。棚田で水仙栽培を始めたのは大正10年( 1 9 2 1 年)に名古屋の生花市場に出荷したのがきっかけと いうから、「棚田の花壇」としては先駆者中の先駆者といえます。水仙のオーナー制度も 2 0 0 1 年から実施しています。
現在の最大の問題は獣害です。猪に加えて最近は鹿も増えてきています。球根を目当てに、いくら柵や網を張っても倒され飛び越えられ掘られ、侵入を防ぐのに本当に苦労しています。見事な景観がスカスカになり、酷い場所はほぼゼロになってしまうといいます。それでもオーナー制代表の滝本さんは「元気なうちは頑張ります」と言っておられました。 2 0 2 0 年には花の栽培地として初めて、国の重要文化的景観に指定されており、獣害防止の計画に補助も出ています。なんとか効果が上がることを願っています。

梨子ヶ平の千枚田

天川棚田/ 愛媛県西条市

愛媛県西条市(旧東予市)河之内天川地区にある「天川棚田」は、標高200mに広がる農村の原風景が残った美しい棚田です。8月下旬にコスモスの種をまき、秋にはコスモスが棚田一面に花を咲かせるその景色は圧巻です。また古民家の展示も行っており、今では珍しい「こて絵」を見る事ができます。開花時期には毎年多くの観光客でにぎわっています。天川棚田保存会では、休耕田を活かしてコスモスの栽培、石鎚山系と瀬戸内海を一望する展望台の整備を行い、秋のコスモスの開花頃には都市住民との交流の場を提供しています。また、関係者が協働で農道水路の維持管理作業や野生動物防護柵の設置管理を行っています。(文・写真:天川棚田保存会)

坂元棚田/ 宮崎県日南市

稲作が困難で畑地化していた7枚の田んぼに、4年前からひまわりを植え始めました。その数、約5万本。ひまわりの種は食用にもなりますが、食べられるようにするにはきちんと乾燥させなければならないとのことで、もっぱら観賞用。昨年は、花が見頃になった田から順番に、無料で刈り取って持ち帰ってもいいようにしたそうで、人気です。
春は菜の花。夏のひまわりが終わった後は、茎などを鋤き込み、10月10日前後に赤花蕎麦の種を撒く。花が美しいこの品種は高嶺ルビーといい、こちらも観賞用で食べられません。開花は11月下旬。道の駅酒谷の周りにも咲いていて、種も売られています。秋の畦に咲く彼岸花も入れれば、坂元棚田では年に4回も美しい花が見られます。

坂元棚田

◇ 認定NPO法人棚田ネットワーク会報誌「棚田に吹く風」131号(2024年春号より転載)
https://tanada.or.jp/news/kaiho131/

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