特集「葉山の棚田米でできたやさしいアイス」

beat ice

今、棚田界で話題の棚田アイス。葉山町上山口の棚田を愛する若夫婦が始めた取り組みが、全国へ広がろうとしています。「BEAT ICE」の山口さんご夫妻に開発秘話などお聞きしました。

山口さんは都内から移住されたとのことですが?

夫はミュージシャンなのですが、職業病で仕事を休まざるを得なくなり、気分転換に葉山を訪れたのです。その際、海岸にある森戸神社の鳥居の向こう、海越しにくっきりと立つ富士山の姿を見て痛く感動したようで、帰宅後すぐに移住したいと切り出しました。一か月後、私たちは葉山で引っ越しの荷解きをしていました。

山口冴希さん

山口冴希さん

一か月で引っ越しなんてよく決心されましたね? ご主人、予想しておられましたか?

希望を伝えたら、あっさり「いいよ!」って返してくれたので驚きました。妻には本当に感謝しています。

棚田に関わるきっかけは?

直接的には葉山に移り住んだ後、子供を通して知り合ったママ友のお誘いですね。人手の足りない水田の農作業を手伝っているから、一緒にやらない?って。

ただ、連れて来られた場所が上山口棚田だったので驚きました。移住後に麓のお蕎麦屋さんに立ち寄り、昼食のお蕎麦をいただきながら棚田を眺めて心を癒されていた場所だったのです。都会人の私たちにとって、農家さんと関わりを持ち、作業を手伝わせて貰える縁はなかなか結べません。ですので、とても幸運に思えました。今にして思えば同じ「山口」ですから、縁ではなく必然だったのかもしれません。

葉山町上山口の棚田

葉山町上山口の棚田

ご主人、農作業は如何でしたか?

自分は都会育ちですから、なにもかもが初めての経験でした。

最初の手伝いは畔切り畔塗りからで、鍬で半分切り落とした畔土を耕運機などで砕き、水を入れて練った土を、手で元のように貼り付けていく。大空の下、大地に大きな粘土細工のアートをしている感覚でした。(編集部注:地方によって畔の作り方は違う。葉山は手で貼り付けている。)ジャンルは違いますが、音楽も何かをつくり表現する行為なので、とても楽しかったです。

ただ農業には自然の摂理との知恵比べがありました。水が流れれば土を削るし、畦土に陽が当たれば乾燥しひび割れ、モグラが来れば穴から水が流れ、挙句は崩れてしまう。天候もありますので目が離せません。一年間、ひたすら田んぼに通いました。そんな中、眼下の棚田を眺めながら自分がとても癒されていることを感じました。この土地で何十年、何百年と、思いどおりにならない自然と折り合いをつけながら米作りをしてきた農家の皆さんを思い、自分の逆境が歴史のほんの一部であることを感じました。土や水や草木が自分を癒してくれました。

BEAT ICE

葉山棚田耕作隊長の片山さんと山口さん

アイスを造ろうと思ったきっかけは?

いくつかの要素があります。

1つ目は、一年間、稲の成長を手助けし見守り続けてきた稲穂を刈り取り収穫した時の感動に似た喜びです。いままで無造作に食してきたご飯の一粒一粒がこんなにも大切に育てられてきていたのかを知り、分けていただいた30㎏のお米をなんとか有意義に使いたいと思いました。我が家は子供が3人いますので30㎏のお米はすぐに無くなってしまいます。どうやって増やそう?長く楽しむ方法は何だろう?甘酒にしたら沢山楽しめるかも?

2つ目は、先にも言いましたが1年間で手にしたお米は30㎏。我が家的にはそれだけで喜ばしいことですが、棚田農家さんがあれだけご苦労されて得られる収入を考えた時、そして耕作放棄地が増える現状を考えた時、何か手助けできることはないだろうか?と強く感じました。

棚田米を売りにできる商品は何だろう。おせんべい?ポン菓子?甘酒?でもどれもピンとこない‥‥。

3つ目は、葉山の棚田は規模が小さく60枚程しかないので収穫したお米も市場に出回りません。ですから葉山の海側に暮らす人は同じ地域に暮らしていても棚田米を食べる機会がありません。何とか海側に暮らす人がフッと里山を感じられる瞬間を作ることができないだろうか?海と里山をつなぎたい。

4つ目は、レンタルキッチンで販売していたお味噌汁朝食が好評で、もう1店舗増やさないかとお声がけいただきました。ただ海岸傍のカジュアルな建物だったため、特に夏場のお味噌汁の売り上げは見込めないだろうと思われました。でも、何とか出店したい。何を販売すればいいだろう?

このような流れからいろいろ協議をし、ひらめいたのが棚田米で甘酒を作り、アイスクリームにして売り上げの一部を棚田に還元すれば保全活動になる!ということ。

BEAT ICE

棚田米から甘酒を仕込み、ココナッツミルクと合わせて作ったアイスはとってもやさしい味わい

 

もう一つはビーガンアイスということ。ビーガンは馴染のない方もおられると思いますが、究極のベジタリアンといわれていて、だし汁からも動物性たんぱく質を使わない食生活の事です。ですので、このアイスクリームは卵や牛乳を使わず、棚田米・大豆・ココナッツミルクで作られています。ここ葉山には食に拘った方も多く住んでいて受け入れていただきやすい環境でした。

はじめは葉山の海側と里山の架け橋として、夏、海辺でアイスを食べながら棚田を思い浮かべてもらえたらいいな?と始めた取り組みですが、最近では、全国各地の棚田の関係者からお声がけいただき、それぞれの棚田米でアイスクリームを造っています。これからもたくさんの方々と親睦を深め、少しでも農家の皆さんの応援をさせていただきたいと思っています。

BEAT ICE
https://www.beatice.jp
tel. 050-5359-9257

BEAT ICE

全国各地の棚田米で作ったアイスの詰め合わせ
写真は12個セット、全国6 ヶ所の棚田アイスを味わえる
¥4,980(税込・送料別)

棚田アイス販売地の声!

岡山県美作市「上山」

上山棚田岡山県美作市にある「上山の棚田」。2007年以降上山地区には関係人口や移住者が大幅に増加し、棚田はその姿を再び現しています。上山アイスには、再生された棚田で生産したお米が使用されており、近隣の温泉旅館やコンビニエンスストアでも購入が可能です。
水柿大地さん(NPO法人英田上山棚田団理事)

徳島県上勝町「樫原ほか」

樫原の棚田上勝町でも、八重地、市宇、田野々、樫原の棚田米をブレンドした棚田アイスができました。上勝では、製造者寄付、販売者寄付、大口購入者寄付の仕組みが動いています。棚田のSDGS活動アイコンとしてつながりを生む棚田アイスに巡り合えてよかったです。
澤田俊明さん(NPO法人郷の元気 代表理事)

山口県長門市「油谷」

東後畑棚田油谷(ゆや)アイスに使用している棚田米は 山口県長門にある向津具(むかつく)半島に属する東後畑棚田の棚田米です。東後畑棚田は日本海から吹く風や水蒸気にミネラルを含み、甘み粘り香りが良い棚田米です。又、棚田のもつ豊かな土と自然環境を活用し、放棄地になった棚田の新しい活用に挑んでいる地域。香り豊かな油谷アイスは、長門市内の道の駅センザキッチンで販売中です!
和田あいこさん(NPO法人油谷棚田景観保存会)

栃木県那珂川町「小砂」

小砂栃木県那珂川町の小砂(こいさご)地区は、美しい自然の恵みと独自のアートで溢れています。そんな小砂の棚田米”小砂ホタル米”を使った美味しいアイスができました。低カロリーでヴィーガン、体にやさしい「小砂アイス」です。現在、道の駅ばとうで購入可能です。是非ご賞味ください。
横田悠二さん(栃木県那珂川町ふるさと大使)

「棚田アイス」続々と拡大中!

地域 棚田名
神奈川県葉山町 上山口
高知県土佐町・本山町 嶺北
長野県千曲市 姨捨
岡山県美作市 上山
熊本県山都町 白糸台ほか
徳島県上勝町 樫原ほか
山口県長門市 油谷
和歌山県有田川町 蘭島
香川県小豆島町 中山千枚田
福島県西会津町 楢山
栃木県那珂川町 小砂

◇ 認定NPO法人棚田ネットワーク会報誌「棚田に吹く風」120号(2021年夏号より転載)

【会報誌】「棚田に吹く風」120号(2021年夏号)を発行しました。

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